知っておきたいお肌の情報

食べもののはなし

心と身体を温める重ね煮

「重ね煮」という調理法、読んで字のごとく「お鍋の中に素材を重ねて煮る」というとってもシンプルな調理法です。

材料を重ねる順番は、マクロビオティックの基本理念である「陰陽論」がベースになっています。
“陰”の野菜とは、葉ものなど上に向かって伸びるものや水分を含むもの。
これらの野菜は身体を緩め、冷やす働きがあり主に夏野菜が中心です。
“陽”の野菜とは根菜類など下に向かって伸び、水分の少ないもの。
これらの野菜は身体を引き締め、温める働きがあり主に冬野菜が中心です。

重ね煮では、この性質を野菜が持つ「個性」として捉え、上に向かう野菜は鍋の下の方に、下に向かう野菜は上の方に重ねます。

すると、弱火でコトコト煮ている間に上に向かう野菜と下に向かう野菜の個性が引き出され、最大限の甘みやうまみが出てくるのです。

最後に野菜の上下を入れ替えるように混ぜ合わせる「天地返し」という工程で、それぞれの野菜が混ざり合い、調和が生まれます。

こうして出来上がった重ね煮は、野菜本来がもつ美味しさがギュッとつまったなんとも滋味深い味わいです。
野菜の個性を引き出すのに使う調味料は、ほんの少しのお塩のみ。
水やだし、砂糖やみりんなどの調味料も使いません。
水を使わないので、日持ちがするのも特徴の一つです。

たくさんの種類の野菜で重ね煮をすれば、それだけで味わい深い「野菜のだし」が出ますし、驚くほどたくさんの野菜を食べる事ができます。
野菜の甘み・うまみと塩だけのシンプルな味なので、一度にたくさん作って保存しておけばアレンジ次第で何通りものレシピにも応用がききます。

重ね煮は、食べる事により体温を上げ自己免疫力を高める効果があるとして、東洋医学の現場でも広く活用されています。
体温が上がる事によって病気を未病で防げたり、気分が明るく前向きになったり、よく眠れるようになったり、お肌や身体の調子が良くなったり・・・と心や身体に対する前向きな働きかけが十分期待できます。

簡単で、美味しくて、身体にいい!
とっても魅力的な調理法。
素材の命に感謝して、丁寧に作ると更に感動的な味に出会えますよ。

オススメの重ね煮レシピ本

 

・ひとつの鍋から幸せひろがる 野菜たっぷり重ね煮レシピ
 船越康弘・かおり 洋泉社

・野菜を信じるレシピ
 船越康弘・かおり 学研

・わらのごはん
 船越康弘・かおり 地湧社

重ね煮が食べられる宿 WaRa倶楽無HP  http://wara.jp/
文責:野間 めぐみ  http://shopmegumi.web.fc2.com/

辰巳芳子さんのこと

「いのちのスープ」

今年の異常なほどの猛暑がなりをひそめ、やっと朝夕が涼しく感じられるようになった9月下旬、「天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”」という1本のドキュメンタリー映画が、鹿児島で最も小さい映画館で公開されました。その前の8月には国際オーガニック映画祭も同館で開かれ、このところ地味ながらも食に関係の深い映画が続けて上映されています。

辰巳芳子さんといえば「いのちのスープ」が代名詞ともいえる、知る人ぞ知る料理研究家、随筆家です。現在の辰巳さんの仕事を支えているのは、水もお茶ものどを通らない嚥下障害を抱えたお父上を、奇跡のように唯一飲むことのできたスープで介護された8年間の体験です。
今でも鎌倉のご自宅には、『「汁物教室に入りたい方は、スープで人様のお役に立とうという決心で。社会に役立つためには、カリキュラムを3年間習うこと』といった約束事のもと、遠方からも熱い思いを秘めた多くの方々がスープ教室に通われています。そして実際に終末期医療や個々の介護の現場で、この理念はゆっくりと確実に広がっているのです。
ある著書の冒頭はこのようにして始まります。
『「つゆもの、スープ」と人のかかわりの真髄は、と問われましたら、あらゆる理論を越えて、「一口吸って、ほっとする」ところ。いみじくも「おつゆ」と呼ばれている深意と答えたいと思います。
作るべきようにして作られたつゆものは、一口飲んで、肩がほぐれるようにほっとするものです。
滋養欠乏の限界状態で摂れば、一瞬にして総身にしみわたるかに感じられるそうです。この呼応作用は、いつの日にか解明されますでしょう。
 「おつゆ‐露」いつ、どなたがこの言葉を使いはじめられたか知るよしもありませんが、露が降り、ものみな生き返るさまと重ねてあります。
私たちの先祖方の自然観と表現力をたたえ、この美しい言葉を心深く使ってゆきたいと思うのです。』
なんと美しい文章でしょう。映画もドキュメンタリーであるにもかかわらず、一編の詩のように美しいのひとことに尽きるように思われます。監督はこの著書の冒頭にある『スープの湯気の向こうに見える実存的使命』の言葉を手掛かりにこの映画を作られたそうです。命題は「愛することは 生きること」。
実際自分自身年を重ねると、日々の食事における汁物の重要性を肌で感じるようになります。現実の体をとおして実感できる美しさ。

一方、スープの解説は、素材と調理法の組み合わせにより図式化され、法則的に調理ができるよう理論的に体系化されています。スープはまず「和の汁もの、おつゆ」「洋風スープ」のふたつに分かれ、和には煎汁、すまし汁、みそ風味の汁、洋にはポタージュ・クレール、ポタージュ・リエなど、さらにそれぞれ素材、調理法により細かく分類されていきます。
 また、辰巳さんの仕事は、料理法だけにとどまりません。使いやすい道具の紹介や開発、機能的でライフスタイルに合わせた台所回りの設計に建築家と共に取り組むかと思えば、環境保全型の安心な食の生産を目指し、米をはじめとするさまざまな農業の現場にも足を運びます。さらには生ハムに魅せられれば、およそ20年間もの試行錯誤の末、高温多湿の日本で本格的な生ハムまで完成させてしまうのです。

著書にはとにかくさまざまなスープが登場しますが、『生命の始めから、その終える日まで、人に寄り添ってくれる汁がある。それは煎じて作られたものに多い。』とある煎汁のなかから、映画の冒頭にも映像化された玄米スープを紹介したい。

玄米スープ

【材料】
・無農薬、有機栽培の玄米をいったもの 80g(約1/2カップ)
 ※いるときは最低2カップほどいって瓶などで保存
・昆布 5cm角2~3枚
・梅干し(無農薬、有機栽培) 1個(種なら3個)
・水 5カップ

【作り方】

  1. 玄米を洗って、6時間くらい、ざるにあげておく。
    厚手で油気のない平鍋などで玄米をいる。
    鍋は中温で熱したら、火力を10のうち3~4に落とし、香ばしい小麦色まで。
  2. ほうろうやガラスのポットにいり玄米、昆布、梅干し、水を入れ、煮立つまで中火、煮立ったらふたをずらし、ふつふつ煮立つ程度で30分ほど炊く。
    (炊き出している玄米を味わってみて味が残っていれば煮出し不足。)
  3. 「2.」をただちにこす。(好みにより塩少々加えて煎じてもよい)
参考図書
「辰巳芳子の家庭料理の世界」(別冊太陽 平凡社)
「あなたのために いのちを支えるスープ」 (文化出版社)
映画「天のしずく」 (パンフレット)

秋の養生訓

鹿児島の夏

日本の南端に位置する鹿児島は、とにかく暑いという印象ですが、気象庁の2010年~12年のデータでみると、初夏から初秋間を集計した日最高気温や日平均気温の上位には、不思議に鹿児島の観測地点は登場しません。しかし、日最低気温をみると、一転して沖縄や鹿児島が上位の中心を占めています。つまり、鹿児島の夏には、朝夕の涼しさで体を休める間のないきびしさがあり、それだけに夏の終わりに疲れがたまりやすいのかもしれません。

季節の変わり目が「土用」

その鹿児島の夏も今年は、9月の声を聞くと急に秋風を感じるようになりました。
武 鈴子著「旬を食べる 和食薬膳のすすめ」(家の光協会)によると、東洋医学の「陰陽五行」理論を基礎とした薬膳では、季節を五季(四季+土用)と捉え、「木、火、土、金、水」のうちの土を季節が移り変わる移行期間としています。現在は、土用といえば鰻というように夏だけをイメージしますが、本来はすべての季節に土用があります。ちなみに立春(2月4日頃)、立夏(5月6日頃)、立秋(8月8日頃)、立冬(11月7日頃)の前18~19日間を土用といいます。
季節の変わり目にあたるこの時期は、鰻のような精のつくもので補わなければならないほど体調をくずしやすいといわれています。また、土用は、五臓六腑の源であり消化吸収を担う器官を総称する「脾・胃」が最も疲れやすい時期と考えられ、胃腸のトラブルは真っ先に肌や口に現れるとされています。
土用に衰えやすい「脾・胃」を補うのが酸味・苦味・甘味・辛味・鹹味(塩から味)の五味のうち甘味の食材です。主食の米をはじめ、野菜、豆、肉・魚など全体の約7割が、体を温めも冷やしもしない「平」の食べ物である甘味に含まれます。また、他の食材の寒・熱の偏りを正す役割もあり、たとえば寒性の抹茶やコーヒーに砂糖やお菓子を合わせると冷えすぎを抑え、さらに味をマイルドにする効果も。
やわらかく、温かく、脂肪分の少ないものが胃腸をいたわる食べ物。いつもよりごはんや野菜もやわらかめに、豆腐もゆでたり炒めたり、麺類も煮込みうどんやにゅうめんにするなど調理を工夫するとよいそうです。土用の食材の代表格といえばやまいもで、夏場の麦とろは定番ですね。秋ではこの時期美味しくなるさばのみそ煮などが胃腸をいたわる土用の養生メニューといえるのだそうです。

秋の養生訓

秋は五穀豊穣の季節で、食欲の秋ともいわれますが、この時期最も気をつけなければならないのが大気の乾燥です。乾いた空気が、皮膚や髪をかさつかせ、口の渇きから呼吸器まで侵しやすいからです。
このような乾きから、肺やこれと表裏一体の関係にある大腸を守るものが、辛味の食材です。ねぎ、生姜、わさび、唐辛子などの香辛料をはじめ、大根、たまねぎ、しそ、にらなど、ほのかな辛味のある食材がこれにあたります。気温の低下や乾燥で働きの弱まった呼吸器を助け、体を温めて余分な水分や気の流れを促し、発散を助ける作用があるとされています。
また、香辛料は刺激物という一方のマイナスイメージは、そもそも香辛料の消費が格段に多い欧米諸国が摂りすぎを自重していわれたことです。むしろ香辛料は、肉や魚など腸内での滞留時間が長い動物性たんぱく質の腐敗を防ぐ重要な働きがあり、欧米人より腸が長い日本人にとってはなおさらのこと。さらに、食生活が欧米化している現代では、体を温め、消化を促進し、防腐、殺菌、消毒の働きがある辛味の必要性が増しているといえるのではないでしょうか。
刺身には、わさびや生姜の薬味に、大根や大葉のつま。とんかつにはからしやレモン。天ぷらや脂ののったさんまやいわしには大根おろし。うなぎのかば焼きには山椒などが添えられるのは、単なる味のバランスだけでなく、たんぱく質の腐敗による食害を防ぐために考え出された、すばらしい生活の知恵だったことに改めて驚かされます。
また、辛味の食材以外では、旬の梨や柿、さつまいもやさといもなどのイモ類、大根、れんこんなどの根菜の他、しいたけやまつたけなどのキノコ類が肺を潤し、大腸の働きを助けます。不思議にその時季にとれる食べ物は、その時季に必要な養分を備え、その時季に起きやすい症状を抑える働きがあるのですね。
まさに今は、新生姜の旬。八百屋さんの店頭には、地元産の瑞々しくやわらかい新生姜が並んでいます。先日の料理番組では、鍋に入れた牛肉(下茹でする)に、皮付きのまま千切りにした新生姜の千切りを、肉が見えないほど大量に入れ、さとう、しょうゆ、酒だけでじっくり炒り煮した「牛肉の時雨煮」が紹介されていました。
コーヒーや緑茶(特に抹茶や玉露)は体を冷やしますが、一方緑茶を全発酵して作られる紅茶には、体を温める作用があります。これに旬の生姜を加えた生姜紅茶やチャイなどは、これからの時期にぴったりの飲み物です。農畜産物や海産物が豊富な鹿児島の秋の恵みを、薬膳の知恵を活用して十分に満喫したいものですね。

食とからだ〜その1

臓器の一部としてのひふ

私たちがひふを考えるとき、露出しているだけに臓器とは意識しませんが、ひふは立派な臓器であり、呼吸・感覚・水分や体温調節・体の保護・脂肪の貯蓄などさまざまな働きを担っています。また、「ひふは内臓の鏡」ともいわれるように、ひふの異常には内臓や体質なども深く関係しているため、からだ全体の調整が欠かせません。

食べることの意味

また、私たちのからだは、隅々で絶えず繊細でかつダイナミックな新陳代謝が続いており、実は一瞬たりとも同じままでいることはありません。生命はミクロなレベルでは、たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」のようなもので、しかも、それは高速で入れ替わっているのです。つまり私たちは分子レベルでみると、半年や一年もすればすっかり入れ替わって、別のからだになっているともいえます。 このからだの「流れ」を維持するには常に新しい分子を外部から取り入れないと、老廃物として排出される分子とのつりあいがとれません。それで私たちは呼吸や食事によって新しい物質を取り入れ、瞬く間に分子レベルに分解し、それを新たなからだへと再構成し続けているのです。私たちは単にエネルギーを得るために食べているわけではないのです。

身土不二(しんどふじ)と和食

「身土不二」には、仏教用語で因果応報ともいわれる「“身”(今までの行為の結果)と、“土”(身がよりどころにしている環境)は切り離せない」という意味と、大正時代に始まった食養運動「地元の旬の食材や伝統食が身体に良い」としての意味があります。ですから私たち日本人には、大きくには和食、小さくには暮らす地域の食材や伝統食が身体に最も適しているということになります。漠然と和食がいいのはわかるけれど、どうして?
この疑問はみなさんが感じていることではないでしょうか。東京薬膳研究所代表である武 鈴子さんの著書「旬を食べる 和食薬膳のすすめ」(家の光協会)によると、旬を大事にする和食の「一汁三菜」は、薬膳の視点でみると理想の食なのだそうです。(以下は「旬を食べる和食薬膳のすすめ」から要約)

和食は未病の薬

薬膳は東洋医学の基本「陰陽五行」理論を基礎としています。陰陽とは天と地のように万物を構成する、相反する二種類のことがらのこと。また、五行とは自然界が「木(植物)、火(熱)、土(土壌)、金(鉱物)、水(液体)の五つの要素で構成されるということです。
また、この五つの要素に対応して五方(方角:四方+中央)、五季(四季+土用)、五味、五色、五臓、五志(感情)、五穀、五菜などなどが複雑に関連しており、このことに照らしても和食の「一汁三菜」は、五季に沿って五味、五色が揃い、それが五臓に働きかけるバランスを備えています。さらに、陰陽でみても「寒・涼」は陰、「温・熱」は陽となり、和食では陰のものに陽のものを組み合わせる調理法が基本となっています。このことから、さまざまな環境やストレスに晒される私たちが、病気になる前にからだのバランスを整えるために生み出されたのが和食であることがわかったのです。

春の養生訓

同書では、日本の四季に沿った食の養生訓をあげています。今は春。草花が芽吹き、虫が動き出す春は、人間にとっても新しい事を始めるエネルギーが高まり、活動的にそれを発散する季節。その自然の陽気にさからえば、めまいやのぼせ、気持ちの高ぶりによる不眠などの症状が出やすくなります。先の五行では、この症状は肝機能の異常亢進によるものとされ、肝は思考をつかさどる器官であるため、肝鬱という言葉もあるようにイライラや不安などの精神的な症状もでやすいのだそう。
これを食により正常に補う作用を持つのが五味の「酸味」と「苦味」。この時期実るレモンや梅干、すももなどをうまく取り入れることがポイントで、また、肝を傷める作用のある酒を梅酒にしたり、レモン、ライムなどの酸味で割るのは理にかなっているんですね。
一方、「苦味」は心を補い、陽の気や血液の高ぶりを抑え、熱を鎮める作用があり、この季節に筍、うど、わらび、たらの芽、菜の花など苦味をもつ山野草が旬を迎えます。また苦味の摂りすぎによる冷えを防ぐため、からだを温める辛味である木の芽やからしを合わせたり、てんぷらなどの調理法を採るなど、和食にはすばらしい先人の知恵が生きているといえるでしょう。

このページのTOPへ